11.23.10:38
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08.25.00:00
act.2 : Ave Maria
(祝福を、生きる意味を君に。)
或る日、赤い卵が届いた。
といっても本物ではなくて、それに似せて作られた飾り物の一種。
これだけで送り主が誰なのか分かってしまうのは恒例になっているから。
たった三人だけの約束。
"眠っていた"間に過ぎてしまった誕生日も盛大に祝うのだと。
実行されたという事は、彼らもまた"目を覚ましている"という合図にもなる。
(――そっか)
(無事だったんだ)
実際立ち会ったわけでもない。言葉を交し合ったわけでもない。
それでも確信は堅く、心は歓喜に満ちている。
今どんな姿で、何処に居て、何をしているのだろう?
好き勝手に想像してさらに心を満たしながら、包みの封を解く。
添えられていた二つのカードには其々手癖の違った星霊リップが描かれていた。
……記憶が合っていれば、ドローリップを使えないヒト達だったような気がするのに。
これだけの為に星霊術士の技術を身に付けていたなら大いに笑ってやりたい。
とんだ馬鹿だ――でも、とても嬉しかった。
片方からは、鼓膜が破れそうな程煩くてテンションの高い声。
もう片方からは、少ししどろもどろながらも落ち着いた声。
此方の様子を気遣う言葉と、他愛の無い近状報告と、一分間は短いという個人的な感想。
どちらも締め括りは、祝歌の独唱。
たった一回だけの、声だけの邂逅。
ドローリップは一度触れれば消滅し、残す術は無い。
記憶した声は頭の中で再生を繰り返す内に欠落し、改変され、掠れてゆく。
仕方の無い事だとは分かっている。でもそれを恐れている部分が在るのも事実。
頭の構造が完璧であれたらよかったのにと悔やんで、悲しくて、情けなくなる。
だからって触れずにずっととっておくのは違うんだって事も、わかってる。
(そう、だからさ)
(会おうよ)
声を聞いて感じたことを赤裸々に、ユーモアたっぷりに、ドン引きさせる程に語ってやりたい。
録音し終わった時のこっ恥ずかしさを穿り返してやるんだ。
(会いに来ればいい)
赤い卵の意味を思い出しながら笑っていた。
ドローリップの無くなったカードに再び触れながら願っていた。
長期間不在にしていた住処のひとつを探り当ててこれを送ってきたのだから、あとは簡単な筈。
あぁ、でも問題点を挙げるとするならば、家主は根付くのがとても大嫌いだという所か。
――ならばお得意の楽観視をしよう。少しだけ希望を副えて。
大丈夫さ、彼らも案外運に愛されている。
(僕の好きな言葉を、秘密の呪文のように唱えて)
(僕はそれをとても頼りにしているんだ)
(ほら、祝詞の声がする)
アヴェ・マリア
(おめでとう、マリア)
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