忍者ブログ

生を遅疑し  死を認めよ  罪に悲歎し  罰を恐れよ  音の案内人はやがて  水の採録者を導く  さぁ、理不尽な終焉を破壊しよう。
10 2024/11 1 23 4 5 6 7 8 910 11 12 13 14 15 1617 18 19 20 21 22 2324 25 26 27 28 29 30 12
RECENT ENTRY RECENT COMMENT

11.23.11:06

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

  • 11/23/11:06

01.24.03:36

act.0 : Res firma mitescere nescit.



(他の路を、知らないからこそ)




 

喫茶店に入って早々、俺は胸焼けがしている。
連れが頼んだコーヒーに、角砂糖の入る音が既に10回は聞こえたからだ。
というか、コーヒーがもうコーヒーの色じゃない。
薄茶色じゃなくて、ほぼ真っ白。

「……それコーヒー頼む意味無くね?」
「コーヒーを頼まなきゃ砂糖とミルクが来ないでしょう」
「紅茶でいいだろ紅茶でっ……!」

お前はコーヒーを冒涜している、と云いかけて、
紅茶に変えたら変えたで紅茶を冒涜する事になることに気づいて、云えない。

そもそもなんで喫茶店にいるか。
冒険者たるもの、依頼の話は酒場でするものだ。
しかし、この甘党にも程がある旅の連れが酒場を嫌っている。酒の匂いが嫌いだからだ。
だから俺は酒場でなく、喫茶店に足を運ばなきゃいけない。
しかも、良質の砂糖を出してくれるからと、いつも同じ場所を指定される。
……おかげで、従業員には付き合ってるのかと思われているようで。
違う、彼女は単なる旅仲間!
そして俺はコーヒーは基本的に何も入れない派! 見ろこの真っ黒な液体を!

……って突っ込みたいんだけど、
見るからに甘ったるそうなコーヒー(のような何か)を視界に入れただけで、やる気が失せる。

「……んで、お前が見たエンディングの内容って何なの」
「頭抱えながらする質問じゃないでしょう」
「頭抱えたくもなるわこの(コーヒーの)惨状っ!」
「五月蝿い。もうすぐ当人が来るから黙ってなさい」
「へ? ……当人?」

ちりんちりん、と音が鳴った。
喫茶店の出入り口の扉についたベルからの、来客の知らせだ。
コーヒー(のような何か)を視界に入れたくない俺は、反射的にそっちを見てしまう。
来客の顔は何度か見た事がある。この喫茶店の店員だ。
……来る事がわかっていたという事は、勤務日なんだろう。
そんなに此処の常連なのか、この連れは――と思った瞬間。
店員の瞳を中心に視界が歪み……見えたのは、理不尽な未来の顛末。

あぁ、くそ、ただでさえ胸焼けしてて気分悪いのに。

「……未だに慣れてないのね、エンディング見るのを」

さらに頭を抱え込んだ俺に、連れの容赦ない指摘。
優しさの欠片なんて無い。彼女はいつでも無表情で、ドライだ。

「慣れてる方が可笑しい」
「私だって慣れてないわよ」
「いやぁ、平気そうですけど」
「貴方が慣れてない方が可笑しいでしょう」
「なんで」
「貴方は為りたかったから、為った」
「……あぁ。でも、半ば自棄よ?」
「それでも、私"達"のように強制ではなかった」

彼女はそう云ってカップを口に運ぶ。
関係者専用扉を開け、中へ入っていく店員の後姿を見届けながら。

力を得るきっかけは様々ある。
本物の空、鍛錬、癒えない傷、主からの指名、天啓、生まれながらの天才、赤い少女――
でも多くはあまりにも突然で、
そして本人が意図しないで得る事が多いんだろうか。
彼女はそれに当て嵌まり、俺には当て嵌まらない。

「無視するって選択肢はあるだろ」
「衝動を無視できるのならね」
「してみたの?」
「随分前にね。でも、私は不器用だから出来なかった」
「……不器用、ねぇ」

それを不器用というなら、俺の方が不器用だ。
身体が弱いという理由で、鍛錬ができなかった。
部族が裏切りで滅んだ事で奇しくも自由の身になって、
死に物狂いで鍛錬し、力を得る事を目指した。
生きるには、その道しか無いと信じてた。
でも旅をして気付いた。
自由の身になった時点で、力に縋る必要なんかなかった。
そう理解しても、俺は今でも力に縋ってる。力に生かされてる。

例え、死にたいと願っても。

「……化物って思った事ある?」
「化物?」
「自分自身の事を――この力のせいで」

俺が自分の事をそう称した訳じゃない。
今ここには居ない、旅の連れが云った事。
死にたいのに、力のせいで死ねなくて、自虐を込めてそう云った。
――そういえばあいつも、意図しないで力を得た方だったか。
全てを博愛しようとして、でも自分自身は愛せない、死にたがり。

俺の知ってる誰よりも、生きる事を渇望してるくせに。


「――私は"そいつ"を、化物と思った事はないわ」

――まるで思考を読んだかのように、彼女は答えた。
驚きを隠せない俺に、彼女は溜息をひとつ吐く。

「何となく予想がついたわ。貴方が誰の事を云ってるのか」
「なんで」
「私もその質問云われたの、そいつに」
「……何て返した?」
「"だから?"」
「あぁ、なんか予想通り」
「だってそうでしょう。そいつが化物というなら、私も化物になる」
「んで、必然的に俺も化物になる」
「そう。だから、この力を恨んで自分を化物と思った事も、無い」

相変わらずの無表情の彼女。
でも、声はさっきよりも力強く、瞳はしっかりと俺を見据えている。
あぁそっか。そうだよなぁ。
言葉を、そして気持ちを濁す事無くはっきりと云う彼女を見て、気付いた。
生かされてるから何だって云うんだ。
こんな力より、化物呼ばわり出来るもんなんて――

「……貴方の戦闘後の癖の方がよっぽど化物でしょう」
「ごふっ」
「コーヒー飛ばさなんで。汚い」
「……飲んでるときに云うなし」
「貴方の地雷なんか知らないわ」

……空気読んでください。
俺の癖というのは……あまり好ましい事ではないので、割愛。

「ところで」
「んぁ?」
「話が逸れたせいでコーヒーを飲み尽くしそうだわ。御代わり」
「……飲むの早ぇよ」

……あぁ、胸焼けが酷くなった。


レース・フィールマ・ミーテースケレ・ネスキト

堅い決心は、弱まる方法を知らない。


PR
URL
FONT COLOR
COMMENT
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
PASS

TRACK BACK

トラックバックURLはこちら