11.23.11:15
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01.18.02:06
act.0 : Non mihi, non tibi, sed nobis.
(むかし、むかし、君の名前が今と違っていた頃。
空を目指してる塔みたいだね、って語り合った都市をきみは登って、俺は落ちた)
(粘土の空に、光る鷹が飛んでいる。
ぐるり、ぐるり、同じ場所を旋回する。)
「頼りにしちゃって、ごめんね」
「仕方ないよ。デモンに捜索の手伝いは出来ないんでしょ」
「うん、棘を束ねて、腕にはできるけど」
「それだけでも十分」
(言葉を返す子の傍らに寄り添う、銀色の狼。
少し警戒しているように見えるのは、棘の気配のせいだろう。
怖がらせてごめんね、と云っても、効果が無いことはわかってる)
「見つかるかな」
「……分からない。でも」
「見つけなきゃ、悲しいままだよね」
「うん」
(失せ物探し。
それは誰でも出来る事だけれど、廃墟の中ならどうだろう。
驚異や脅威に遭った時、失くすものは何か。失くす側はどちらか)
「懐かしいなぁ」
「懐かしい?」
「うん。昔、よく本を探してた。こんな所で」
「本?」
「廃墟、冒険した事ない?」
「……辺境に、人工物は滅多に無いから」
「そっか」
(徐々に活気が無くなっていく階層に「僕ら」は居た。
一歩踏み間違えれば、ヒトが立ち去った領域。
それでも僕らは悠々と、そして楽しそうに、街を練り歩いた。
今思えば無謀。仮に死んでしまったとしても、気の毒だと思われないぐらいに)
「ねぇ」
「ん?」
「あのヒトとは、同じ都市国家の」
「うん、下層で暮らしてた」
(打ち捨てられていた本を頼りに、
都市国家のこと、辺境のこと、色んな知識を身につけていく。
それが真か否かを知りたくなって、道を開く為の力を身につけようともして。
俺が星霊術士に憧れていたのも、あの頃だったっけ。
一生懸命描いたつもりの星霊の絵を、ゆるいなぁと評すきみの声は、
いつ思い出しても楽しそうだ)
「友達、だったの」
「親友、だよ」
「でも」
「気まずそうにしてる?」
「あのヒトはそうしてる」
「そうだね」
「何か怒ってるの」
「ううん、全然」
「じゃあ何で」
(大人とも子供とも云い切れなかった年頃。
小バカにされるのは嫌いで、何か一つでも誇らしく思える物が欲しかった。
だからヒトに自慢出来るような事を見つければ、飛びついて、成し遂げようとして。
それだけじゃ強くなれないのは、薄々気付いていた。
でも、他の方法が思いつく程賢くなんかない。
あの頃は、きみだけが頼りだった。
一人では怖くて、不安だ。だからいつも、きみを誘ってた。
悪魔と話せる子供。暗黙の決まり事を破って話しかけてくれたのは、きみだけだった)
「置いてっちゃったから」
「なにを」
「俺を」
「誰が」
「あの子が」
(空を見に行こう、と云い出したのは俺だった。
唐突な提案、目を丸くするきみ、でも楽しそうだと笑い合う僕ら。
そう、いつもと同じ筈だった。
危険と隣り合わせだけど、楽しくて、記憶に残る探検になる筈だった。
俺が、足を滑らせてしまうまでは)
「気にしてないのにな」
「あのヒトは気にしてる」
「そっか」
(かみさまが怒ってしまったんだ。
下層に住む俺が、高みを目指してしまったから。
ひとりじゃ何もできない奴が、何でもできると驕っていたから。
お願い、許して。
落ちるのは、悪魔だけでいいから。
どうか、あの子にだけは、空を。
そう願って、あの子が差し伸べようとした助けを、拒んだ)
「……まだ、引き摺ってるんだね」
(あれからどのくらい経ったんだろう。
最初こそ数えていたけれど、段々と意味を見出せなくなって、やめた。
少なくとも、大人と云われる歳にはなったよ、俺も、きみも)
「何か云えば、気にしなくなるかもしれない」
「云ったよ。でも」
「駄目だった」
「うん」
「もう、諦めた?」
「うん」
(理由は分かってる。
きみは、些細な事でも抱え込んでしまう。
きみは、助けを求める事がうまくできない。
きみは、すべてが気になってしまう)
「……悲しくないの」
「悲しいよ、でも」
「でも?」
「このままでいいんだ」
(知っている。
消えない傷がつく前に、きみに云ったさいごの言葉。
きみが忘れてしまった、唯一の言葉。
それが、きみを縛り付けている、ひとつの理由。
でも、今それを教えた所で何が変わるのだろう。
俺には、それを嫌な記憶と認識して、忘れようともがいて、
でもできない姿しか、思い浮かばない)
「このままじゃなきゃ……親友じゃ、なくなっちゃう」
(どうか、その言葉を思い出さないで。
ずっとずっと、縛られたままでいて)
(――こんな願い、親友がする事じゃないのは、わかってる)
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